明日はいよいよ…

a1. 『イントロダクション』(ホン・サンス

a2. 『あなたの顔の前に』(ホン・サンス

b1. 『爆弾物処理班の遭遇したスピン』(佐藤究)

 

 

 

 

a1.

なんやこれはおもろかったぞ。三部作の内すべてに登場するのは将来が定まらず、ふらふらとドイツにまで恋人を追いかけていったり、俳優を目指してみたりする男で、一応彼の物語だとは言える。しかしその主幹からはみ出る部分がおもしろく、とくに居酒屋で先輩俳優から叱られる場面では、耐えきれずにおもわず飛び出してしまう青年をカメラがフォローするのではなく、その場所に残り続け、「言い過ぎたな」と泣きじゃくる先輩俳優にカメラが向けられる。このような作劇、ワンシーン=ワンカットでは場所がぐっと浮かび上がってくる瞬間があり、この感覚を掴んだ映画は強い。なお、ベルリンで脚本賞受賞とのこと。

 

a2.

「いきなり会話してる謎の二人」から場面をはじめるホンサンスの演出法では、会話劇によって徐々に小出しにされていく新情報に一々驚きながら見る。実は難病を患い余命僅かであることを、ふいに告白された映画監督。死ぬ前に君と短編映画を作りたい、と伝える彼だったが、翌朝には「昨日は酔っていたから言い過ぎた。君と映画を作るのは現実的ではない」とボイスメッセージが入る。この展開はとても良かった。ホンサンスは基本会話劇でありながら、あまり言葉を信じすぎていない。『イントロダクション』と比べると、少し長すぎる気もしたが見れてよかった。

 

b1.

『九十三式』が一番好みです。この本を読みたくなった。

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たった本一冊(厳密には二冊)のために再びニューギニアを体験しなくてはならなくなる主人公の末路と、その彼の内面の真実(浮浪児を野良犬とみなして焼き殺してしまった)とは裏腹にコルサコフ症候群というキーワードが導入されたことで揺らぎ出す現実との対比が何よりも読みどころ。さらには帝銀事件山田風太郎(!)が登場することで、あり得たかもしれない歴史を妄想する愉しみもある。山田に「江戸川乱歩全集」が手渡されるところなど夢想してしまいますな。古書店象眼堂というのも実在したのだろうか。次点は『猿人マグラ』でしょうか。こちらも空想歴史本的です。箱崎水族館が一度だけ言及されるのだけど(死体があがったらしいこと、それが『ドグラマグラ』に活かされている?)、もしやこれが『アクアリウムの夜』の元ネタのひとつだったりするのだろうか。

にしても、江戸川乱歩が同時代人に与えた影響というのは甚大なんですね。この前滝本誠さんと荒俣宏さんによる本の虫同士の対談を読んでいてもその影響力の大きさに驚いた。

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