【書籍時評】『真似のできない女たち-21人の最低で最高の人生』

真似のできない女たちー21人の最低で最高の人生 (山崎まどか , 2022)

 

 

山崎まどか著『真似のできない女たちー21人の最低で最高の人生』を読みました。

山崎まどか『真似のできない女たち』

 

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著者が、影響を受けた、と表現するには少々自身の人生を棒に振りすぎるし、尊敬するか、と問われればもちろん尊敬をするものの、時間的・空間的な隔たりがあるためにその思いを直接届けることは不可能であるし、たとえ同時刻・同場所にいたとしても、声をかける勇気はないかもしれない。ただ、紹介される女たちが抱く熱情と、そのビジョンのややグロテスクな形での具現化には、そんな隔たりを帳消しにしてしまうほどの異形さがあり、異形であるが故に、どこか他人とは思えない。そんな著者と女たちの間にある奇妙な距離感を表す「真似のできない」という修飾句がすばらしい。2011年に単行本化された際には『イノセントガールズ』という題名だったそうだが、この度の改題はすばらしい判断である。

 

合計21人の女たちの最低で最高の人生が紹介される中、まるで都市のスナップを撮るかのように文章で描写できるほどの聡明な頭脳を持っていたが、生活が最後まで充実することはなく作家業だけでなくその人生までも終えたメーヴブレナンや、数多のアーティストを虜にする美神で、関係を持った男たちに数々の栄誉をもたらしたが、次第にアルコールに溺れてモルヒネで意識が朦朧とする中死んでいったキャロラインブラックウッドのような女たちの不幸な人生は、どこか時代に拘束されているような印象を受け、今、彼女らの人生に思いを馳せることでその異形さが正しく私の心に伝わった、とは言い難い。どうしても隔たりを感じてしまった。これは私の想像力の乏しさを示しているのかもしれないが、そんな中、強く心を揺さぶられたのは、

「グレイガーデンズの囚われ人」イディ・ブービエ・ビール、

「嘘つきなテキスタイルデザイナー」フローレンス・ブロードハースト、

「名声だけを求めたベストセラー作家」ジャクリーンスザン、

「ソフトコアポルノ映画の女性監督」ドリス・ウィッシュマン、

「悪魔に魂を売った作家」メアリー・マクレー

の5人であった。この5人にどこか共通しているのは、彼女たちが見た光景と、おそらく当時の人々が見ていた光景との間には、決定的な齟齬が生じていたに違いない、という感覚だ。わたしはこの感覚に強く惹かれる。修道女モノの本を読んでいて、幻視者に出会うと気持ちが高揚してしまうのと同じ感覚なのかもしれない。また、映画『アンカットダイヤモンド』での主人公ハワードの行動にくぎ付けになってしまうのも同じ感覚だ。その感覚を指して、私はたびたび「異形だ」と形容しているのである。

彼女たちの世界認識は我々の認識とは異なり、まったく別の論理によって活動していたのだろう。その論理に人々を巻き込むことができる者は成功者であり、それができないものは「エキセントリックな女」として片付けられてしまう。その齟齬に強く惹かれ、最もそれを感じさせるのがこの5人であった。

 

彼女たちの存在を知れてよかった。

次は、レイチェルタラレイの人生とかを知りたいな。