偽書

a1. 『マンディブル 2人の男と巨大なハエ』(カンタン・デピュー)

a2. 『若き詩人の心の傷跡』(ラドゥ・ジュデ)

 

 

 

デーブリンを読み終わり、ようやく次の本へ移行(といっても自分の家に帰ればあらたに『運命の旅』が待っているのだが…)。今は原田実による『偽書がゆるがせた日本史』を読んでいます。これはかなり面白い。例のロシアからオーストリアに持ち込まれた偽書シオン議定書』についても、補足として言及。今日・明日の内には読み終わりそうだ。

新作ではこちらが楽しみ。『Glorious』。本日より米国ではShudderにて限定配信。ポスター内に触手が映り込むだけで一気に興味を刺激される。Cosmic Horrorです。

Glorious movie review & film summary (2022) | Roger Ebert

粂田文先生の『ベルリンアレクサンダー広場』(ファスビンダー)評。「まるでベルリンを室内劇のように撮っている」と評している。こういう室内性ゆえの密閉感というか閉塞感というか、そこから愛憎劇にまで発展していってもおかしくない雰囲気。こういう感覚はたとえばジョセフ・ロージーにもある。彼は実際に室内劇なわけだけど。

 

 

a1.

おもしろかった!デカい蠅の運搬を任される話、にならなかったことにまずは見ていて驚く。無知な主人公が巻き込まれていくタイプのサスペンスは皆無で、すべての責任は彼らにあり。ちょっとした寄り道を、一瞬でも主軸かと思わせてくれる豊かな映画。

 

a2.

毎回ハードな映画ばかりを作ってくるラドゥ・ジュデ。歴史劇だった『アーフェリム!』、現代が舞台の『野蛮人として~』『アンラッキーセックス』どれも会話を重視しており、信じがたい発言が次々と登場すること、全くの無知と言ってよいルーマニアの歴史に根ざした固有名などが連発される。『闇の左手』でも読んでいる気持ち、ひとつのSFを見ているような。それらにくらべると大分とっつきやすい映画ではあった。本作は舞台が1937-1938年のルーマニア。つまり大戦直前の病院が舞台。『コレクティブ』で映されていた現代ルーマニアの病院の悲惨な現状とあまり変るわらない状況。主人公が思わず「精肉店」と皮肉を言うくらいには雑な仕事ぶり。一方、他の患者との触れあいは盛んで、夜間には恋バナや政治談義に花を咲かせるギプス病棟の患者達。1940年にシマ率いる鉄衛団が政権を奪取する2年前(投票率急上昇中)、主人公がユダヤ人ということもあって、イオネスクやシオランといったワードが頻発する。ギプスで自由に身動きがとれない状態だからこそ燃えるセックスは二度描かれ、どちらも非常に良かった。基本的には引いた画ばかりの中、こちらも二度『吸血鬼』的なカットがあり、死を強く連想させる。基本となる画にも、そこかしこに鏡を仕込んでいたり、主人公が動くタイミングでときどきパンしたりと、意外にも有機的な印象。