ジェームズガンとアルドルッチ?

a1)『飛べフェニックス』(ロバート・アルドルッチ)                                   a2)『ピースメイカー』(1-5話)(ジェームズ・ガン他)                      c1)『Bangkok Shocks , Saigon Shakes』(ハノイロック)

 

 

何の脈絡もなく二本の映像を見る中で、ガンの『ザ・スーサイドスクワッド』を見たときにも感じたことですが、アルドルッチ『特攻大作戦』を強く意識していることもあってか、ガンーアルドルッチはどこか通ずる所があるよなあ、と漠然と感じる。『飛べフェニックス』の作劇は見事で、大尉の立ち位置て曖昧なんですよね。だから途中で離脱させて、アラブ人攻撃部隊に襲われそうになるピンチに帰ってくる、という構成にしている。「リーダー」が重要なテーマである作品ゆえ、「大尉」がいると鬱陶しい。また余りに協調性のないボーグナインも別行動、即刻離脱させている。躱し方が見事だなあと思うんですが、同じことを『ザ・スーサイドスクワッド』のリックフラッグ・ハーレイでもやっていますし、『ガーディアンズオブギャラクシー』のガモーラ・ベイビーグルートでもやっている。チームものにおける作劇の基本なのかもしれないが、リーダー格と狂人は別行動させる辺りどこか似ているなあと。ただ、アルドルッチがストーリーテリングに徹するのに対して、ガンはどうしても、カメラと被写体の間に趣味性が介在してしまうのが残念な所。

 

 

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偶然にも昨晩見た『突破口!』と通ずる場面があり驚く。肝心な所で飛び立てないウォルターマッソーに対し本作ではまさに今しかないという瞬間にエンジンがかかり、見事飛び立つ。冒頭から、無駄なく、その一点に向けて収斂していく映画の構成にやはりアルドルッチ!と快哉を叫ぶ(実際の撮影では不慮の事故によりパイロットのPaul Mantzは亡くなる)。砂漠のど真ん中に墜落してしまう際、二人の乗客が命を落とし、彼らの墓が建てられる。墓には十字架が供えられ、時々画面の端にちらつく二本の十字架が何とも不吉な印象を残す。ゆえにその十字架の上を滑空するラストは感動的だ。不吉、と言えば機長のスチュアートの顔を映したファーストショットから既に雲行きが怪しかったのだった。チーム一丸となって動くか、と言われればそう簡単にことは進まず、主に、プライドが傷つけられてふて腐れるジェームズスチュアートと常に理性的で最適解を導き出すハーディークルーガーとの小競り合いのせいで、飛行機づくりは思うように進展しない。他より多く働いているために、その分水を多めに頂くクルーガーへの厭味として、彼の目に付くところに「水使用の実態」と書かれたグラフをわざわざ用意して貼り付ける程の粘着ぶりが見物である。本作のカタルシスのポイントは、そんな馬の合わない二人が、お互いにすり寄って妥協点を見つけて意気投合する瞬間にあるのではなく、お互い「意見は曲げず」に問題を解決してしまう所。いざ飛ぶ段になっても、スチュアートはクルーガーの意見に耳を傾けず、エンジンを抑えることをしない。エンジンがかかれば、それはもうスチュアートの領分なのだ。またクルーガーも意見を曲げない男。二人の仲裁に立つアッテンボロー(とはいえ途中本気でスチュアートを叱る場面があるのだが、そこでのアッテンボローの顔、具体的に言うと歯が鮫みたいで凄い)は、クルーガーが、ただのおもちゃ飛行機の設計士だと知って愕然とし、発狂するが、クルーガーによる理論的裏付けを聞くことで納得する。クルーガーは、別に謝ることなんてしない。ここでも発言・行動の一貫性に感動する。仮病を使って足を捻挫したふりをするロナルドフレイザーも、一貫して軍曹に刃向かう。全キャラクター中、撮影のジョセフバイロックによって、昼夜を問わず、最も強い翳りを与えられているのはフレイザーである。特に、仮病を使っていることを忘れて不意に走ってしまた所をスチュアートに見つかる場面の陰影は凄まじい。半ば滑稽スレスレであった。猛暑の中、彼もまた気が狂ってしまった時に見るビジョンは、靄がかかって鮮明には見えないのがもどかしい。これは編集の妙であろう。更にマイケルルチアーノによる編集が光るのは、アラブ人によって殺害されてしまった軍曹らの遺体を発見する場面での、あの即物的な死体の見せ方だ。この提示の仕方は『ワイルド・アパッチ』に引き継がれている素晴らしい編集。それから精神を病んだアーネストボーグナインが単独行動に出る場面と、その後に続くスチュアートが息絶えた彼を発見する場面でのクロスフェードを使った編集も、また良い。ひときわ人柄の良さが際立っていたジョージケネディーは、本作きっかけに大好きになった。あの人の笑顔には救われるなあ。順撮りなのかしら?日差しのせいで徐々に皮膚がめくれていく顔のメイクも見所の一つ。皮膚がボロボロで髭を伸ばしっぱなしのスチュアートの表情には、鬼気迫るものがあった。

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『ピースメイカー』の美点はタイトルコールにもある通り、歌とダンス(と動物)(ああいう時なのに全員真顔なのがガンのリアリティ)。ジェームズガンにとって両者はセットなのかもしれないが、バタフライ計画の本部襲撃に成功し絆を深めた一同が狭いキャラバンの中で曲をかけながら踊る。というかことある毎に踊る。ちなみに話が大きく前に進む4,5話はガンは脚本のみで監督はしていない。また今までの所、タイトルコールで確認できるキャラクター以外は登場しておらず、不必要に大所帯にしないところもまた良。回の終盤になると、思い思いの時間を過ごすメンバーの様子がカットバックで提示されるのが面白い。今のところハーコートの存在感がやや薄いのが気になる。あんまり楽しそうにしていない。エコノモスを演じるSteve Ageeは前作に引き続き良いが、与えられる台詞が単調過ぎるのと、出向を命じられ意気消沈しているのか、役者が手を抜いているのか判別が付かず悶々としたが、ゴリラをチェーンソーでぶった切る5話まで来てようやく馴染んできた。アデバヨは4話で柔道マスターを撃ち殺し(実は殺せてはいないが)一歩成長したにも関わらず5話では、まだ死体にトドメの一撃を食らわす?ことが限界なようだ。ジョンセナはもちろん最高で、ヴィジランテとのコンビはずっと見ていたい。「もう少しで仲良くなれたのに、また厭味を言ってしまった」と泣きながらベッドで反省していると、割れた窓ガラスからヴィジランテ登場、の一連の流れは笑った。またバタフライ達が乗ってきた?小型宇宙船は何なのだろう。ピースメイカーのX線カメラ付ヘルメットといい、ヒーロー/ヴィランの武器が素人に流用され、話が転がる。さあ残り三話。

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第5話のテーマ曲が本アルバム中の「11th Street Kidz」。最も耳慣れた曲の「Tragedy」はあまりピンと来なかったが「Cheyenne」はとても良かった。アルバム通して聞くと段々とマイケルモンローの声がかすれて来、本曲の最後ではなんと尻切れトンボで終わる。大変刺激的。その後に続く「11th Street Kidz」「Walking with my angel」「Pretender」どれも良い。日本盤は『白夜のバイオレンス』というタイトルで、白地に薔薇だけという簡素なアルバムデザイン。ロックと薔薇。

 

 

 

メモ)イタリア映画祭では(金銭的な都合もあり)『スーパーヒーローズ』『マルクスは待ってくれる』『そして私たちは愚か者のように見過ごしてきた』の三本をオンライン鑑賞予定。6/19まで。忘れずに4500円確保しておくように。

 

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