【映画時評】『バーニングダウン/爆発都市』

Shockwave 2 (Herman Yau , 2020)

 

 

『バーニングダウン/爆発都市』を見ました。

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日本公開は二年遅れですか。舞台設定は2019年の香港だそうなので(劇中でも言及される)、たった二年と言えども様々な事件が起こった濃い二年だったので、隔世の感がありました。アンディラウとラウチンワンの約20年ぶり、『麻雀大将』(共にジョニー・トー監督作品)以来の共演になるそうです。ただ二人の映画といえば何と言っても『暗戦』でしょう。数日前に見直したのですが、やはり傑作。俳優の視線が持つニュアンスを的確に感じ取れるジョニー・トーだからこそなしえた快挙、素晴らしい映画です。

 

 

 

そんな傑作を事前に見ていたので期待値はかなり高めでした。そして不安の種は、「果たしてラウラウが同じ画面に収まってくれるだろうか」「最後にちょこっとラウチンワンが出てくるだけなのでは?」。しかし全ては杞憂でした。ちゃんと二人の映画じゃないですか!

 

映画開始15分後、いきなり物語は山場を迎えます。おそらく九龍の襤褸アパートの上層階で男が住人二人を人質に取り籠城。犯人を何とか取り押さえる爆発物処理班の面々。一件落着かと思いきや、なんと住人たちは爆発物が乗った秤の上にくくりつけられている。秤から降りるとその時点で起爆してしまう。さらに壁一枚挟んで住人二人ともが同じ配線で起爆スイッチにくくられているのです。つまり解除するためには、二つある起爆装置を「同時に」クリアしなければならない。そこでアンディラウとラウチンワンが出動します。タイミングを合わせるためにかけ声を求めるアンディにチンワンが応えるのですが、そのかけ声が何とも愛らしい、不思議なかけ声。長年の信頼関係が、このような些細な描写から窺えます。この場面は、壁一枚挟んで向かい合うラウラウを映した引きのカットなども抑えており、大変素晴らしいです。

 

この場面の最後でアンディは片足を失います。ここはアンディが後処理を引き受けてしまったが為に起こってしまった悲劇で、同じ悲劇がチンワンに起こっていたとしても不思議ではありません。エンディングで九龍橋をC4爆破する場面でも、厄介事を引き受けるのはアンディです。ここには『レイジングファイヤ』のボン/ンゴウ的な物語を期待してしまい、果たしてアンディの奥さんをあそこまで立たせる必要があったのだろうか、と疑問に思います。そしてこんな可愛らしい記事もあります。足を失っていたのがチンワンだったらどうなったんだろうと色々妄想してしまいますね~そしてそこに触れて欲しくはあったなあ!!ヤオ!

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ただ僕が思うアンディラウの魅力は存分に発揮されているように思えました。彼は厭味のないイケメンだと思います。そして映画スターの条件とはその厭味のなさだと考えております。だからヒーローもヒールも両方共に演じることが出来る。今作ではその二面性を如何に演出するかが映画の勘所ですから、見事ハマっていたと思います。さらにハーマン・ヤオはその二面性に加え「記憶の埋め込み」という設定を持ち込んだ点が最高です。以前『林檎とポラロイド』という退屈な映画を鑑賞したとき、本筋とは全く関係ないのですが「記憶喪失者に過激思想を埋め込んでデモに送り込む」というアイデアが登場しておりとても心惹かれたのですが、まさにそれを描いてくれていたので盛り上がりました。そしてそんな荒唐無稽なアイデアを補う些細な描写も、アイスバケツチャレンジフェイスブックフォロワー0など、冴えています。

 

アイスバケツチャレンジ

 

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また銃撃戦も起こるシチュエーションが魅力的です。記憶を失って病院に缶詰にされるアンディを復生会の連中が救出に来る場面で派手な銃撃が起こるのですが、他の患者を盾にしたり、コラテラルダメージを食らったりと凄惨です。ハーマン・ヤオは清潔なロケーションを血と臓物で汚す趣向があるようです(未見ですがジョニー・トー『ホワイト・バレット』も似たような題材の映画なのでしょうか?)。そこから街中でのチェイスに移行するのですが、そこも凄い。監視カメラのような高い位置に設置された俯瞰ショットを交えた素早いカッティングで演出されるチェイスが面白い。またアンディラウ自らがスタントなしで望んだという、矢鱈ビルから飛び降りまくる(しかも片足で)カットも凄ければ、単に道路を横切る場面でもわざわざ車スレスレを走り抜けたりする。見応えあります。

 

ただハーマン・ヤオは非情な監督です。アンディがテロリストではないと思わせといて、やっぱりテロリストでしたとひっくり返す展開を用意する辺りに彼の非情さがよく現われていると思いますが、特にエンディングがひどい。九龍橋爆破に成功し、祝杯ムードでカメラはドローン映像に移ります。すると、海中で爆発したために津浪の二次災害が起こってしまい九龍全体が水没してしまう様が引きでしれっと映る。こういう非情さで、何とも暗い気持ちに陥ります。

 

ぜひご鑑賞下さい。