【映画時評】『クライムゲーム』

No sudden move (Steven Soderbergh , 2021)

 

ティーブンソダーバーグ監督の新作映画。コロナ期間中にキャスト・スタッフみんなでホテル缶詰になりながら撮影をしたらしい。当初予定していたキャストが変更になることもしばしばあって製作は大変だったそうだが、なんとか完成。

 

www.youtube.com

 

舞台は1954年のデトロイト。50年代のデトロイトと言えば自動車産業が盛んな時期で、本作ではそんな業界内部の闇を描く。というものの、犯罪映画らしいルックは終盤に至るまで中々見られず、印象的なショットは極端にゆがめられた広角ショットと逆光撮影のために映り込むレンズフレア。隅に立つ役者がぐにゃっと歪んで見えるほどおかしな引きの画が何度も登場するが、元々1 : 2.40サイズでフレーム化する予定だったのが、歪みを収めるために1 : 2.16サイズにリフレ-ミングしたとのこと。つまりこれでもマシな方で、当初の意図は50年代の不完全なレンズ特性を再現するために極端な歪みを持つコーワ・アナモフィックレンズを使用したものの、あまりに歪曲収差が大きすぎたようだ。

 

シチュエーションは屋内であることが多く、更にどこもサイズが小さく窮屈な印象を与える。ドン・チードルとその手下(今は更生してベルボーイをやっている)が寝室で会話をする場面では仰角気味にカメラを据えていることもあってか、天井の圧迫感が強調されて見える。チードルはそれほどサイズのある俳優でないにも関わらず、だ。画面の窮屈な圧迫感は、ベニチオデルトロが映る場面では更に高まる。

 

物語の緊張感が高まるのは、外で大雨が降る中、レストランで行われる会談の場面だ。この場面では画面中央にテーブルランプが設えられ、店全体はぼんやりと薄暗い。二人が待っていると、そこにまずレイリオッタがやってくる。ランプを受けるリオッタの顔には犯罪映画のソレを感じ期待が高まるのだが、常に画面端に映っているために顔が歪んでしまい、表情を楽しむことができずフラストレーションが溜まる。次いでブランドンフレイザーがやってくる。フレイザーの存在感は中々良く、彼ももっと見たかったのだが、しっかりと表情を映してはくれない。そこから素早いカッティングにより銃撃戦を処理し(フレイザーはここで死亡。かなりざんない死に方)、逃亡したリオッタを大雨の中追う二人。銃底で何度もリオッタを殴打し、トランクの中に閉じ込めるも隙を見て脱走。何とか家に帰りついた彼であったが、妻に射殺されて死亡。この妻を演じるのがジュリアフォックス。『アンカットダイヤモンド』での好演が記憶に新しい彼女は、それ以降多数の映画に出演しているよう。『アンカット』よりグラマーになった印象。憧れはアンナ・ニコルのようで、今なら彼女主演で伝記映画ができるかもしれない。『PVT chat』というソフトコアポルノ映画にも出演しており、今後も期待。

 

www.imdb.com

 

www.imdb.com

 

次から次へと黒幕が登場する展開とキャスティングの妙が面白い映画でした。